ゴッホ展 感想

ゴッホ展に行った。彼の作風はその短い画家人生のなかでも時期によってそれぞれ異なることや、自分が惹かれるのはいつの作品のどんなところなのかを改めて知った。

 

数年前に「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」で見た果樹園の絵と再会して嬉しい。キャプションに三月下旬以降とあり、実際まだ寒さの残る春の絵だと感じられた。記憶の中ではこの絵はもっと寒い季節を描いている印象だった。それというのも「巡りゆく日本」展で同じく展示されていた雪景色の絵とこの果樹園の絵とが、私にとっては同じ記憶の部屋に入っているからなのだった。この絵を見る2021年の私の頭の中にレ・シルフィードのパ・ド・ドゥの音楽が流れ出すのも、2017年の私がゴッホのアルル時代の作品にレシルのイメージを強く喚起させられたからだ。そんなふうに過去の鑑賞体験に印象付けられている絵ではあるけれど、今の私が見ても「こんな絵が自宅にあったらいいだろうな」と思った。

 

今回の展示は、個人のコレクションとしては最も多くゴッホの作品を集めた、ヘレーネという人物に焦点をあてたものだった。展示の入口にヘレーネのコレクションの一覧があり、作品の値段も書かれていたのだが、どう見ればいいのか分からなくて戸惑ってしまった。美術品の値段と評価についての知識やマーケティング的な知識が全くないのだな。

 

大きな展覧会に行く度に思っているかもしれないが、皆がぞろぞろと並んで鑑賞する様子におげぇ~!?となる。パンダじゃないんだから。好きなように行ったり来たりしながら見なよ。
キュレーターが用意した展示順がその人にとっての鑑賞体験と常に一致するなんてあり得ない。ずっと列に従って押し流されるままに作品を見てる人たち、あれは「身体なき視線」だと言えるかもしれない(舞台芸術と視線の権力についての文章を読んでいる)。あなたが今日美術館に行ってゴッホを見た、それは本当にあなた自身の体験だったのか?

 

 

以下、個人的なメモ。

 

機織りの絵のポストカードが欲しかったけれど売っていなかった。結局、グッズ化されるのは「映える」絵よね、と思う。ポストカードを二枚買う。それから沢山持っているようでいて気に入ったものは全然持っていない、メモ帳とマスキングテープも。できるだけ持ち物が気に入ったものと実用的なものだけで構成されるよう、徐々に入れ替えていきたい。栞は、大いに必要だけどピンとくるデザインのものがなく、でも一緒に行った人が「これにしな!」と選んでくれたので一つ買った。人に選んでもらったものを使うというのも趣があると思う。

 


6. アンリ・ファンタン=ラトゥール『静物(プリムローズ、洋梨、ザクロ)』

キャプションに「精神性」とあり、その言葉から出発してわたしは「禁欲的」だと思った。でもザクロが描かれている絵に「禁欲的」はおかしいはず。モチーフと隠喩についての勉強をしたい。


8.カミーユピサロ『2月、日の出、バザンクール』

早朝や夕暮れの不思議な光をよりよく留めるのは、わたしにとってはなぜか、写真より絵画であるように思う。


10. ポール・シニャックポルトりゅーの灯台、作品183』

なぜか構図がとても写真的だと思った。


43.フィンセント・ファン・ゴッホ『織機と職工』

絵を見ながら、絵の中の薄暗い石造りの小屋へと入っていく。鑑賞者の身体性で空間を再現する。


48.フィンセント・ファン・ゴッホ『鳥の巣』

鳥の巣に惹かれるゴッホの気持ちを知りたい。


72. フィンセント・ファン・ゴッホ『黄色い家』

ゴッホって、こんなに青い空を描くの。

キャプションに「コバルトの空と黄色い家、難しい題材だった」というようなゴッホの手紙からの引用。

 

71. フィンセント・ファン・ゴッホ『サント=マリー=ド=ラ=メールの海景』

ゴッホって、海描くんだ。なぜかあたたかい気候/地域の海だと感じる。

 

60.フィンセント・ファン・ゴッホ『サン=レミの療養院の庭』

これも、絵の中に入ってみる。ICUのキャンパスのような。私は咲く花々がうれしくて歩き回り手を伸ばすだろうし、ゴッホもひたすらに花が嬉しかったのだろう。

夜の絵だとは気づかなかった。


63. フィンセント・ファン・ゴッホ『夕暮れの松の木』

今回の展示の中で一番ジャポニズムを感じた。


67.フィンセント・ファン・ゴッホ『夜のプロヴァンスの田舎道』

夜なのに明るい。


57.フィンセント・ファン・ゴッホ『サン=マリー=ド=ラ=メールの眺め』

絵に描くことと写真に撮ることは違うけれど、ある景色が持つ情感を留めたいと思うことは、私が写真を撮る理由でもあり、(きっと)ゴッホがアルルで絵を描く理由でもある。


58. フィンセント・ファン・ゴッホ『種まく人』

私にとってのゴッホは、今はなくなりつつあるあの畑を想起させる作品。この絵は、種まく人の足元の枯草が、ほんとうに。